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新潟地方裁判所 昭和41年(行ウ)7号 判決

新潟市天神尾一三七番地の一〇一

原告

斎藤勇吉

新潟市営所通二番町六九二番地の五

被告

新潟税務署長

右指定代理人

福永政彦

横山茂晴

熊谷直樹

志村忠一

篠義一

星野信吉

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第七号所得税更正決定処分取消請求事件につき、当裁判所はつぎのとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告

1  被告が、原告に対してなした別紙(一)記載の不動産について、課税標準額金二七六万一、一二二円、所得税額金六一万二、四七〇円、過少申告加算税額金二万三、五〇〇円とする昭和四〇年四月一〇日付昭和三八年分所得税の更正決定を取消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

(請求の原因)

一、原告は、被告に対し、昭和三八年分の譲渡所得金額について確定申告をしたところ、被告はこれに対し昭和四〇年四月一〇日課税標準額を金二七六万一、一二二円、所得税額を金六一万二、四七〇円および過少申告加算税額金二万三、五〇〇円とする旨の更正決定処分(以下本件処分という)をなした。そこで、原告は本件処分を不服として関東信越国税局長に対し、審査請求をしたが、同局長はこれを棄却する裁決をなした。

その経過は、別紙(二)記載のとおりである。

二  本件処分の理由はつぎのとおりである。

原告は、昭和三八年六月五日別紙(一)記載の不動産(以下、本件不動産という。)(1)ないし(3)を金六五〇万円で訴外株式会社大光相互銀行(以下、大光銀行という。)に譲渡したから、昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(以下も同じ)第九条第一項第八号により金八二万七、七五六円を控除した金五六七万二、二四四円が原告の譲渡所得額となる。そこで、同法第九条第一項により課税されるべき総所得金額は右譲渡所得額から金一五万円を控除した金額の一〇分の五に相当する金二七六万一、一二二円となる。したがって、法定の所得税額は、金六一万二、四七〇円過少申告加算税は金二万三、五〇〇円となるというにある。

三、しかし、本件処分は、つぎのとおり違法である。

1  原告は大光相互銀行から昭和三五年一月三〇日金三〇万円、同年一〇月三一日金一〇〇〇万円、同年一二月一〇日金一〇〇万円、合計金二三〇万円を借受け、右金員をそのころ訴外新潟ダイヤデイーゼル株式会社(以下、新潟ダイヤデイーゼルという。)に融資した。そして、原告は同年一月三〇日大光相互銀行との間で右債務を担保するため、本件不動産(1)および(3)に根抵当権を設定した。

2  ところが、原告は右債務を履行できなかったので、大光相互銀行から、右債務の支払請求の訴訟を提起され、全面敗訴した。

そこで、原告は大光相互銀行に対し、昭和三八年六月五日根抵当権を設定した本件不動産(1)および(3)のほか、同(2)の不動産を含めて金六五〇万円と評価し、これを同銀行に売渡した形式にして、前記債務の元金二三〇万円、利息金七四万四、一六一円、債権取立費用金六、五〇〇円、計三〇五万〇、六六一円を差引いた金三四四万九、三三九円を同銀行から受領した。

3  しかして、本件不動産のうち金三〇五万〇、六六一円相当分については、原告はこれを大光相互銀行に対する前記債務の代物弁済として譲渡したものであるから、これを売買として課税した本件処分は違法である。

4  仮に、右主張が理由がないとしても、原告は前記のとおり新潟ダイヤディーゼルに対し貸しつけた元本金二三〇万円およびその利息金七四万四、一六一円、合計金三〇四万四、一六一円が回収不能となって貸倒れとなった。したがって、この分を譲渡所得から控除すべきであるのに、これを控除しない本件処分は違法である。

四、よって、原告は被告に対し、被告がなした本件処分の取消を求める。

(被告の答弁ならびに主張)

一、請求原因一および二の事実は認める。

二、同三の冒頭の事実は争う。同三の1の事実は認める。同2の事実のうち、原告が差引かれた金額、受領した金額は否認するが、その余は認める。但し、原告は、本件不動産を大光相互銀行に真実売渡したものである。同3および4の事実は争う。

三、本件処分はつぎのとおり適法である。

1  原告は、請求原因三の1、2記載のような事情から昭和三八年六月五日大光相互銀行に対し、本件不動産(1)ないし(3)を、代金六五〇万円で売渡した。なお、この売買契約により昭和三八年七月八日に売買代金六五〇万円から原告の借入金二三〇万円、これに対する利息金七四万四、一六一円、前払家賃(本件不動産は、すでに大光相互銀行において賃借していた。)金一五万五、八三九円、合計金三二〇万円を差引いた金額三三〇万円が大光相互銀行から原告に支払われた。

2  しかして、原告の本件不動産の譲渡による総収入金額は、金六五〇万円であり、所得税法第九条第一項第八号の規定する控除額は金八二万七、七五六円をこえないものであるから、譲渡所得金額は右総収入金額から右の金額を控除した金五六七万二、二四四円となる。(同法第九条第一項第八号。)

そこで、課税されるべき総所得金額は、右金五六七万二、二四四円から金一五万円を控除した金額の十分の五に相当する金二七六万一、一二二円となる(同法第九条第一項。)

3  仮に、原告主張のように、本件不動産の譲渡が原告の大光相互銀行に対する借入金債務の代物弁済としてなされたとしても、譲渡所得の計算上、右の売買の例と何ら区別すべき理由はない。

すなわち、代物弁済はいうまでもなく本来の給付に代えて他の給付をなすことにより債権を消滅させる契約であるから、これを資産の譲渡の側からみると債務者としては、代物弁済の目的とした資産の所有権を債権者に移転し、その反対給付として借入金の消滅という財産上の利益を得る内容の契約であるといいうる。代物弁済による譲渡は、その資産を一たん売却してその収入代金をもって借入金を弁済したものと経済的には同一であるとみられる。そうだとすれば、本件処分が適法であることに変りはない。

4  さらに、原告が大光相互銀行から借受けて、金銭を新潟ダイヤデイーゼルに融資し、その貸付金が貸倒れとなったからといって、これは本件不動産譲渡とは別個の法律関係であり、右譲渡所得の計算にあたり右貸倒れを考慮すべき理由は全くない。

(証拠)

一、原告

甲第一号証ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証ないし第一〇号証を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は認めるが、乙第二および第三号証の成立は知らない。

二、被告

乙第一、ないし第三号証を提出し、証人大室正平の証言を援用し、甲第一ないし第五号証の成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一、請求原因一および二の事実は、当事者間に争いがない。

二、そこで、本件処分の適法性について判断する。

原告が、請求原因三の1記載のように、大光相互銀行から合計金二三〇万円を借入れ、これを新潟ダイヤデイーゼルに融資したこと、その後同銀行に対し右債務を担保するため、本件不動産(1)および(3)に根抵当権を設定したこと、ところが、原告は右債務を履行できなかったので、同銀行から右債務の支払請求の訴訟を提起され、全面敗訴したことは、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いない甲第四号証、原告本人尋問の結果(後記信用しない部分を除く)および弁論の全趣旨によると、原告は昭和三八年六月五日前記のとおり大光相互銀行に対し抵当に入れていた本件不動産(1)および(3)のほかに同(2)を含めてこれを一括して、合計金六五〇万円で同銀行に売渡し、その際同銀行に対する借入金元金二三〇万円、これに対する利息七四万四、一六一円のほか訴訟費用、前払家賃など計金三二〇万円を差引いた金三三〇万円を受領することで右売買代金が清算されるものとしたことが認められ、原告本人尋問の結果中、右認定に反する部分は、にわかに信用できず、その他右認定を覆えすにたりる証拠はない。

右事実によれば、原告は自己の資産である本件不動産(1)ないし(3)を大光相互銀行に代金六五〇万円で売渡したのであるから原告の本件不動産の譲渡による総収入金額は金六五〇万円であり、したがって昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法第九条第一項にいう原告の所得税の課税標準は、同条第一項および同項第八号所定の計算により金二七六万一、一二二円となることは明らかである。

もっとも、前記事実によれば、原告は大光相互銀行に対する前記売買代金債権の一部をもって、同銀行に対する前記自己の債務と対当額に相殺したことが窺われるが、これによって原告の受けた譲渡利益が変動することはないから、右の結論に影響するものではない。

また、原告は本件不動産の一部(金三〇五万〇、六六一円相当分)を大光相互銀行に対する前記借入金の債務に対する代物弁済として譲渡した旨主張するが、原告本人尋問の結果をもっても、これを証することができないばかりでなく、右主張自体本件処分を不適法とする理由になり得ない。けだし、右譲渡が代物弁済であるとしても、これによって、原告は大光相互銀行に対し、当然支払うべき前記債務を免れたことになり、結局前記認定とおりの売買代金の支払を受けたと同一の経済的利益を現実に受けることになるからである。

さらに、原告は新潟ダイヤデイーゼルに対する貸付金が、回収不能となったから、その分を本件不動産の譲渡所得から控除すべきである旨主張するが、原告の本件不動産の売買と、新潟ダイヤデイーゼルに対する貸付金とは、別個独立の法律関係にあることは明らかであるから、右譲渡所得の計算にあたり、右貸倒れを考慮すべき理由はなく、右主張は爾余の点を判断するまでもなく、採用できない。

三、そうだとすれば、本件処分は適法であり、この取消を求める原告の本訴請求は、理由がないから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚淳 裁判官 佐藤歳二 裁判官松野嘉貞は、転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 大塚淳)

別紙(一)

(1) 新潟県両津市大字夷字海方三〇番の一

一、宅地 六五坪四合二勺(二一六・二六平方メートル)

(2) 同所二五五番の八四

一、宅地 四一坪三合六勺(一三六・七二平方メートル)

(3) 同所三〇番の一、家屋番号同所三〇番

一、木造瓦葺二階建店舗 一棟(店舗付住宅)

建坪 三二坪五合七勺(一〇七・六六平方メートル)

外二階一〇坪 (三三・〇五平方メートル)

附属建物

一、土蔵造瓦葺二階建倉庫 一棟

建坪 五坪 (一六・五二平方メートル)

外二階 五坪 (一六・五二平方メートル)

一、木造瓦葺平屋建物置 一棟

建坪 六坪 (一九・八三平方メートル)

一、木造亜丹葺平屋建便所 一棟

建坪 三坪 (九・九一平方メートル)

以上

別紙(二)

〈省略〉

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